ゆうがおのもん
夕顔の門

冒頭文

()十九の海騒うみざい 一 『はてな。……閉めて寝た筈だが』 と、若党(わかとう)の楠平(くすへい)は、枕から首を擡(もた)げて、耳を澄ました。 ——風が出て来たらしい。 海が近いので、庭木には潮風が騒(ざわ)めいている。確かに、寝しなに閉めたとばかり思っていた庭木戸の扉(と)が、時折、ばたん——ばたん——と大きな音を立てている。 楠平は、手燭を

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年6月

底本

  • 吉川英治全集・43 新・水滸傳(二)
  • 講談社
  • 1967(昭和42)年6月20日