ゆくくも
ゆく雲

冒頭文

上 酒折(さかをり)の宮、山梨の岡、塩山(ゑんざん)、裂石(さけいし)、さし手(で)の名も都人(ここびと)の耳に聞きなれぬは、小仏(こぼとけ)ささ子(ご)の難処(なんじよ)を越して猿橋(さるはし)のながれに眩(めくる)めき、鶴瀬(つるせ)、駒飼(こまかひ)見るほどの里もなきに、勝沼(かつぬま)の町とても東京(ここ)にての場末ぞかし、甲府はさすがに大厦(たいか)高楼、躑躅(つつじ)が崎(さ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「太陽」1895(明治28)年5月号

底本

  • にごりえ・たけくらべ
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1949(昭和24)年6月30日、2003(平成15)年1月10日改版