たけくらべ
たけくらべ

冒頭文

一 廻れば大門(おほもん)の見返り柳いと長けれど、お歯ぐろ溝(どぶ)に燈火(ともしび)うつる三階の騒ぎも手に取る如く、明けくれなしの車の行来(ゆきき)にはかり知られぬ全盛をうらなひて、大音寺前(だいおんじまへ)と名は仏くさけれど、さりとは陽気の町と住みたる人の申き、三嶋神社(みしまさま)の角をまがりてよりこれぞと見ゆる大厦(いゑ)もなく、かたぶく軒端(のきば)の十軒長屋二十軒長や、商ひは

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文学界」文学界雑誌社、1895(明治28)年1~3、8、11、12月、1896(明治29)年1月

底本

  • にごりえ・たけくらべ
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1949(昭和24)年6月30日、2003(平成15)年1月10日改版