はちがみねのだんれつ
八ヶ峰の断裂

冒頭文

八(はち)ヶ峰というのは、鹿島槍ヶ岳と五竜岳との間にある山稜の一大断裂に名付けられた称呼であって、峰とは呼ばれているが実は隆起した地点ではない。此(この)断裂の特色は山稜が歪なU字形にくびれて、越中人夫の所謂(いわゆる)「窓」を形造り、其儘(そのまま)一直線に急峻なる越中側の山腹を抉(えぐ)って、五百米も下の東谷(南五竜沢)の雪渓まで続いていることである。上部に於ては底は稍(や)や平であるが、左右

文字遣い

新字新仮名

初出

「山岳」1918(大正7)年2月

底本

  • 山の憶い出 上
  • 平凡社ライブラリー、平凡社
  • 1999(平成11)年6月15日