はるのおおがたやま
春の大方山

冒頭文

南アルプスの二、三の山が東京から望まれることが確実となったので、外にも尚(な)お、遠い大井川奥の空から煤煙の都東京をこっそり覗いている山が或は有るかも知れない。夫(それ)を探し出すには東から眺めた山々の姿を眤(じっ)と瞳の底に烙き付けて置く必要がある。この見地から農商務省出版の甲府図幅を拡げ、展望台として恰好と思われる山を物色して二つを選み出した、一は河口湖の東北に在る毛無(けなし)山で、他は本栖

文字遣い

新字新仮名

初出

「登山とはいきんぐ」1935(昭和10)年8月

底本

  • 山の憶い出 上
  • 平凡社ライブラリー、平凡社
  • 1999(平成11)年6月15日