ちちぶのおくやま
秩父の奥山

冒頭文

何の為に山へ登るか。自分は此(この)稿を書こうとして、筆を持ったまま考(かんがえ)に耽っていると、不図(ふと)心の奥でひそやかな声がそう囁いた。 然(しか)し自分は今茲(ここ)にそれを論じようとしていたのでは勿論ない。唯(ただ)秩父山脈が首都に近い割合に、相当の高さと深さと大(おおき)さとを有し、麓に一ノ瀬、梓山、栃本などの愛す可(べ)き山村を抱いて、二、三泊の旅行ならば、充分に楽しい愉

文字遣い

新字新仮名

初出

「山岳」1914(大正3)年9月

底本

  • 山の憶い出 上
  • 平凡社ライブラリー、平凡社
  • 1999(平成11)年6月15日