ゆきのしょうじ
雪の障子

冒頭文

めずらしいものが降った。旧冬十一月からことしの正月末へかけて、こんな冬季の乾燥が続きに続いたら、今に飲料水にも事欠くであろうと言われ、雨一滴来ない庭の土は灰の塊のごとく、草木もほとほと枯れ死ぬかと思われた後だけに、この雪はめずらしい。長く待ち受けたものが漸くのことで町を埋めに来て呉れたという気もする。この雪が来た晩の静かさ、戸の外はひっそりとして音一つしなかった。あれは降り積もるものに潜む静かさで

文字遣い

新字新仮名

初出

「図書」岩波書店、1940(昭和15)年3月

底本

  • エッセイの贈りもの 1
  • 岩波書店
  • 1999(平成11)年3月5日