あくたがわのげんこう
芥川の原稿

冒頭文

まだそんなに親しい方ではなく、多分三度目くらいに訪ねた或日、芥川の書斎には先客があった。先客はどこかの雑誌の記者らしく、芥川に原稿の強要をしていたのだが、芥川は中央公論にも書かなければならないし、それにも未だ手を付けていないといって強固に断った。その断り方にはのぞみがなく、どうしても書けないときっぱり言い切っているが、先客は断わられるのも覚悟して遣って来たものらしく、なまなかのことで承知しないで、

文字遣い

新字新仮名

初出

「図書」岩波書店、1954(昭和29)年11月

底本

  • エッセイの贈りもの 1
  • 岩波書店
  • 1999(平成11)年3月5日