ここがならやま 〈ははをかたる〉
ここが楢山 〈母を語る〉

冒頭文

母は明治八年生れ。三男二女をもうけて、僕はその二男に当る。他の兄妹は、それぞれ嫁をもらい、嫁にゆき、残った母と僕との生活が始まってもう二十年以上になる。 一人者の僕の処が居心地がいいのか、まだまだ僕から目が放せないのか、それは分らないが、とにかく、のんきに二人で暮している。 母は、朝早く夜早く、僕はその反対だから家にいても滅多にめしも一緒に食わない。 去年頃までは、な

文字遣い

新字新仮名

初出

「週刊朝日」1958(昭和33)年8月10日号

底本

  • 小津安二郎映畫讀本 [東京]そして[家族]
  • フィルムアート社
  • 1993(平成5)年9月25日