むぎかり
麦刈

冒頭文

久々に来た東京の友を案内して、奈良の新薬師寺から白毫寺(びやくがうじ)村の方へ歩いた。この辺りの麦刈はすこし遅れていま盛んに刈つてゐるところである。真青な苗代田があちらこちらに見える。 麦刈の女の一人がつと立ち上つて、天を仰ぐやうに身を伸した。 私の昔の句に 麦刈が立ちて遠山恋ひにけり といふのがあるが、この辺りは近くに春日山、高円山などの山々が迫り、その青い色が黄

文字遣い

新字旧仮名

初出

「七曜」1959(昭和34)年8月

底本

  • 花の名随筆4 四月の花
  • 作品社
  • 1999(平成11)年3月10日