へび

冒頭文

明け易い夏の夜に、なんだってこんなそうぞうしい家に泊り合わせたことかと思って、己(おれ)はうるさく頬(ほお)のあたりに飛んで来る蚊を逐(お)いながら、二間の縁側から、せせこましく石を据えて、いろいろな木を植え込んである奥の小庭を、ぼんやり眺めている。 座布団の傍(かたわら)に蚊遣(かやり)の土器が置いてあって、青い烟(けむり)が器に穿(うが)ってある穴から、絶えず立ち昇って、風のない縁側で渦巻

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論 第二十六年第一号」1911(明治44)年1月

底本

  • 灰燼 かのように 森鴎外全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1995(平成7)年8月24日