かみなりもんいほく
雷門以北

冒頭文

広小路(一) ……浅草で、お前の、最も親愛な、最も馴染(なじみ)のふかいところはどこだときかれれば広小路の近所とこたえる外(ほか)はない。なぜならそこはわたしの生れ在所である。明治二十二年田原町で生れ、大正三年、二十六の十月までそこに住みつづけたわたしである。子供の時分みた風色(けしき)ほど、山であれ河であれ、街であれ、やさしくつねに誰のまえにでも蘇生(よみがえ)って来るものはない。——

文字遣い

新字新仮名

初出

「東京日日新聞」1927(昭和2)年6月30日~7月16日

底本

  • 大東京繁昌記
  • 毎日新聞社
  • 1999(平成11)年5月15日