ぜにがたへいじとりものひかえ 082 おつぼねおろく
銭形平次捕物控 082 お局お六

冒頭文

一 紅葉(もみぢ)は丁度見頃、差迫つた御用もない折を狙(ねら)つて、錢形平次は、函嶺(はこね)まで湯治旅と洒落(しやれ)ました。 十手や捕繩を神田の家に殘して、道中差一本に、着換(きがへ)の袷(あはせ)が一枚、出來るだけ野暮な堅氣に作つた、一人旅の氣樂さはまた格別でした。 疲れては乘り、屈託(くつたく)しては歩き、十二里の長丁場を樂々と征服して、藤澤へあと五六町といふ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋社、1938(昭和13)年11月号

底本

  • 錢形平次捕物全集第十六卷 笑ひ茸
  • 同光社磯部書房
  • 1953(昭和28)年9月28日