ぜにがたへいじとりものひかえ 075 きんちゃくきりのむすめ
銭形平次捕物控 075 巾着切の娘

冒頭文

一 「あツ危ねえ」 錢形の平次は辛(から)くも間に合ひました。夜櫻見物の歸りも絶(た)えた、兩國橋の中ほど、若い二人の袂(たもと)を取つて引戻したのは、本當に精一杯の仕事だつたのです。 「どうぞお見逃しを願ひます」 「どつこい待ちな、——そんな身投げの極り文句なんか、素直に聞いちや居られねえ」 「死ななきやならないわけがございます。どうぞ、親分」 爭(あらそ)ふ二人、平

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋社、1938(昭和13)年増刊号

底本

  • 錢形平次捕物全集第十六卷 笑ひ茸
  • 同光社磯部書房
  • 1953(昭和28)年9月28日