ぜにがたへいじとりものひかえ 064 きゅうひゃくきゅうじゅうりょう
銭形平次捕物控 064 九百九十両

冒頭文

一 「親分」 「何だ、八」 「腕(うで)が鳴るね」 ガラツ八の八五郎は、小鼻をふくらませて、親分の錢形平次を仰(あふ)ぎました。 初夏の陽を除(よ)け〳〵、とぐろを卷いた縁側から、これも所在なく吐月峯(はひふき)ばかり叩いてゐる平次に、一とかど言ひ當てたつもりで聲を掛けたのでした。 「腕の鳴る面(つら)かよ、馬鹿野郎。近頃お濕(しめ)りがないから、喉(のど)が鳴るん

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋社、1937(昭和12)年6月号

底本

  • 錢形平次捕物全集第十三卷 焔の舞
  • 同光社磯部書房
  • 1953(昭和28)年9月5日