ぜにがたへいじとりものひかえ 020 しゅぬりのはこ |
銭形平次捕物控 020 朱塗りの筐 |
冒頭文
一 「親分、美(い)い新造(しんぞ)が是非逢はしてくれつて、來ましたぜ」 とガラツ八の八五郎、薄寒い縁にしやがんで、柄(がら)にもなく、お月樣の出などを眺めてゐる錢形の平次に聲を掛けました。 平次はこの時三十になつたばかり。江戸中に響いた捕物の名人ですが、女の一人客が訪ねて來るのは、少し擽(くす)ぐつたく見えるやうな好い男でもあつたのです。 「何て顏をするんだ。——何方
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「オール讀物」文藝春秋社、1932(昭和7)年11月号
底本
- 錢形平次捕物全集第十三卷 焔の舞
- 同光社磯部書房
- 1953(昭和28)年9月5日