よつや、あかさか
四谷、赤坂

冒頭文

高力松 いかつい石垣が向い合って立っていた。子供の目には恐ろしく高く見える。石垣の上は四角く平らになっていた。昔はぶっさき袴(ばかま)の侍がその上に立って、四辺を睥睨(へいげい)したであろう。石垣に続いた土手は、ゆるい傾斜で、濠の水面まですべっていた。水は青いぬらで澱(よど)んでいた。菱の葉が浮いていた。夏は紅白の蓮の花が咲いた。土手には草が蓬々(ほうほう)と茂っていた。が、濠端を通る人

文字遣い

新字新仮名

初出

「東京日日新聞」1927(昭和2)年10月4日~9日

底本

  • 大東京繁昌記
  • 毎日新聞社
  • 1999(平成11)年5月15日