しば、あざぶ
芝、麻布

冒頭文

『あばよ、芝よ、金杉よ。』 子供の頃、一緒に遊んでいた町の子達と別れる時、よく私達は歌のように節をつけて、こういった。 私は麹町の富士見町で育った。芝といえば——金杉といえば——大変遠いところのような気がした。 『あばよ、芝よ、金杉よ。』 今でも、この一句を口ずさむと、まだ電灯のなかった、薄暗い、寂しい、人通りの少ない、山の手の昔の夕暮が思い出される。 その芝

文字遣い

新字新仮名

初出

「東京日日新聞」1927(昭和2)年10月25日~30日

底本

  • 大東京繁昌記
  • 毎日新聞社
  • 1999(平成11)年5月15日