わせだかぐらざか
早稲田神楽坂

冒頭文

床屋の壁鏡 神楽坂通りの中程、俗に本多横町といって、そこから真直ぐに筑土八幡の方へ抜ける狭い横町の曲り角に、豊島という一軒の床屋がある。そう大きな家ではないが、職人が五、六人もおり、区内の方々に支店や分店があってかなり古い店らしく、場所柄でいつも中々繁昌している。晩になると大抵その前にバナナ屋の露店が出て、パン〳〵戸板をたたいたり、手をうったり、野獣の吠えるような声で口上を叫んだりしなが

文字遣い

新字新仮名

初出

「東京日日新聞」1927(昭和2)年6月11日~29日

底本

  • 大東京繁昌記
  • 毎日新聞社
  • 1999(平成11)年5月15日