はるあわれ
はるあはれ

冒頭文

むかし男がゐた。むかしと云つても、五年前もむかしなら、十年前の事もむかしであつた。その男はうたを作り、それを紙に書いて市で賣つてたつきの代(しろ)にかへてゐた。うたは大してうまくなかつたが、依頼者は悉く女達であつたからどうやらそのまま通つて、毎日一人くらゐの客があつて食ふことが出來てゐた。客はそのうたに詠みこむための事情とか憐憫、戀愛、反抗なぞのありきたりの樣々なめんだうな話をして、おしまひにみん

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「新潮」1961(昭和36)年7月1日

底本

  • はるあはれ
  • 中央公論社
  • 1962(昭和37)年2月15日