なぎさ

冒頭文

齒醫者への出がけに、ななえが來た。 鮒の子を持つて來たんですけれど、池ん中に手網を入れてすくつて見ても、すぐ水が濁つてしまつて鮒の子がどこにゐるのか、判んなくなつちやつたと言ひ、ビニールの袋を差し出して見せたが、中には瘠せた鮒の子が、たつた五ひきしかゐなかつた。何だ五ひきくらゐなら、そこらで買つたつて宜かつたんだ。鮒の子をやるやると言ふもんだから、もつと美事な大きい奴だと思つてゐたら、こ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「群像」1961(昭和36)年7月1日

底本

  • はるあはれ
  • 中央公論社
  • 1962(昭和37)年2月15日