ちまたのこ
巷の子

冒頭文

西洋封筒の手紙が一通他の郵便物に混(ま)じりこんでゐて、開いて見ると、わたくしはあなたのお作品が好きで大概の物は逃がさずに讀んでゐるが、好きといふことは作者の文章のくせのやうなものに、親身な知己を感じてゐるものらしく、そのくせのやうな所に讀んでまゐりますと、まるめこまれる自分の心の有樣がよく解りまして、そこで讀んでゆく速度をおさへてゐる間が大變に愉しうございます。先をいそいで讀まうとしながら故意(

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「新潮」新潮社、1960(昭和35)年7月1日

底本

  • はるあはれ
  • 中央公論社
  • 1962(昭和37)年2月15日