すえのめ
末野女

冒頭文

一人の吃りの男に、道順を尋ねる二人づれの男がゐて、道すぢのことで、三人が烈しく吃り合ひながら、あちらの道を曲るのだとか、こちらの小路からはいつて行くのだとか言つて、ちんぷん、かんぷん言葉が亂れて譯が判らなくなつて了つた。吃りといふものは頭で吃るからだ。吃る人間は燃える發音を消しとめることが出來ない、日劇ミュージクホールの揷話劇がいま三人の吃りの男が、自分で放けた火を消しとめることで、叫び合つて、そ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「小説新潮」新潮社、1960(昭和35)年9月1日

底本

  • はるあはれ
  • 中央公論社
  • 1962(昭和37)年2月15日