うみのゆうわく
海の誘惑

冒頭文

打ち返し泡立ち再び寄せ 盛り上り 岩を打つ波濤の歴史の永遠の力は時としてあの不可解な死への誘惑を感ぜしめる波に乗り 暴風雨(あらし)を経て大洋の航路にある旅客船は絶えず地球の経緯を計っているが世界を行く人々の心にあやしくも その感情の芽生えた時には海は彼等が凡て目的の彼方であり船長も水夫も多くの旅客も惜し気もなく 悲しまず永遠の歴史の海底へ沈むであろう

文字遣い

新字新仮名

初出

「旭川新聞」1928(昭和3)年5月31日

底本

  • 今野大力作品集
  • 新日本出版社
  • 1995(平成7)年6月30日