ぜにがたへいじとりものひかえ 066 たまのこしののろい
銭形平次捕物控 066 玉の輿の呪

冒頭文

一 「あツ、ヒ、人殺しツ」 宵闇を劈(つんざ)く若い女の聲は、雜司(ざふし)ヶ谷(や)の靜まり返つた空氣を、一瞬(しゆん)、煑えこぼれるほど掻き立てました。 「それツ」 鬼子母神(きしぼじん)の境内から、百姓地まで溢れた、茶店と、田樂屋(でんがくや)と、駄菓子屋と、お土産屋は、一遍に叩き割られたやうに戸が開いて、聲をしるべに、人礫(ひとつぶて)が八方に飛びます。 「お

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋社、1937(昭和12)年8月号

底本

  • 錢形平次捕物全集第十二卷 鬼女
  • 同光社磯部書房
  • 1953(昭和28)年8月25日