だいのうはちゅうぼうである
大脳は厨房である

冒頭文

眼球は日光を厭ふ故に瞼(まぶた)の鎧戸をひたとおろし頭蓋の中へ引き退く。大脳の小区画を填めるものは困憊したさまざまの食品である。青かびに被はれたパンの缺け、切り口の饐えたソオセエジ……オリーヴ油はまださらさらと透明らしいが瓶一面の埃のためによくは見えない。眼球は醜い料理女である。厨房の中はうす暗い。彼女は床のまん中で少しばかりの獣脂を焚く。背の低い焔が立つて油煙がそつと 頭蓋の天井に附く。彼女は大

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 富永太郎詩集
  • 現代詩文庫、思潮社
  • 1975(昭和50)年7月10日