かげえ
影絵

冒頭文

半缺けの日本(につぽん)の月の下を、 一寸法師の夫婦が急ぐ。 二人ながらに 思ひつめたる前かゞみ、 さても毒々しい二つの鼻のシルヱツト。 生(なま)白い河岸をまだらに染め抜いた、 柳並木の影を踏んで、 せかせかと——何に追はれる、 揃はぬがちのその足どりは? 手をひきあつた影の道化は あれもうそこな遠見の橋の 黒い擬宝珠の下を通る。 冷飯草履の地を掃く音は もはや聞えぬ。

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 富永太郎詩集
  • 現代詩文庫、思潮社
  • 1975(昭和50)年7月10日