もゆるほお
燃ゆる頬

冒頭文

私は十七になつた。そして中學校から高等學校へはひつたばかりの時分であつた。 私の兩親は、私が彼等の許であんまり神經質に育つことを恐れて、私をそこの寄宿舍に入れた。さういふ環境の變化は、私の性格にいちじるしい影響を與へずにはおかなかつた。それによつて、私の少年時からの脱皮は、氣味惡いまでに促されつつあつた。 寄宿舍は、あたかも蜂の巣のやうに、いくつもの小さい部屋に分れてゐた。そし

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「文藝春秋 第十年第一号」1932(昭和7)年1月号

底本

  • 堀辰雄作品集第一卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年5月28日