せいかぞく
聖家族

冒頭文

死があたかも一つの季節を開いたかのやうだつた。 死人の家への道には、自動車の混雜が次第に増加して行つた。そしてそれは、その道幅が狹いために、各々の車は動いてゐる間よりも、停止してゐる間の方が長いくらゐにまでなつてゐた。 それは三月だつた。空氣はまだ冷たかつたが、もうそんなに呼吸しにくくはなかつた。いつのまにか、もの好きな群集がそれらの自動車を取り圍んで、そのなかの人達をよく見よ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「改造 第十二巻第十一号」1930(昭和5)年11月

底本

  • 堀辰雄作品集第一卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年5月28日