第一部 彼はすやすやと眠つてゐるやうに見えた。——それは夜ふけの寢臺車のなかであつた。…… 突然、さういふ彼が片目だけを無氣味に開けた。 さうして自分の枕もとの懷中時計を取らうとして、しきりにその手を動かしてゐる。しかしその手は鐵のやうに重いのだ、まだその片目を除いた他の器官には數時間前に飮んだ眠り藥が作用してゐるらしいのである。そこで彼はあきらめたやうにその片目を閉