あいびき |
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冒頭文
……一つの小徑が生ひ茂つた花と草とに掩はれて殆ど消えさうになつてゐたが、それでもどうやら僅かにその跡らしいものだけを殘して、曲りながらその空家へと人を導くのである。もう人が住まなくなつてから餘程になるのかも知れぬ。それまで西洋人の住まつてゐたらしいことは、そのささやかな御影石の間に嵌めこまれた標札にかすかに A. ERSKINE と横文字の讀めるのでも知られる。 その空家は丁度或るやや急
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「文科 第参輯」春陽堂、1931(昭和6)年12月25日
底本
- 堀辰雄作品集第一卷
- 筑摩書房
- 1982(昭和57)年5月28日