さまよえる
彷徨へる

冒頭文

芸術論や人生論をやる場合にも劣らぬ否寧ろそれよりも逈かに主観的に情熱の高まつて来るのは、彼が先輩G——の愛人I子の噂をする時の態度であつたが、その晩彼は彼自身の恋愛的事件について、仄かな暗示をG——に与へたのであつた。G——はI子とちよつと遠ざかつてゐるやうな場合に、I子に関して、共鳴を惜しまない、彼と語るのが一つの慰安であり救ひであつた。彼とはG——の最も愛してゐる武村青年であつた。彼は真摯で芸

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第二十五年第二号」1928(昭和3)年2月1日

底本

  • 徳田秋聲全集 第16巻
  • 八木書店
  • 1999(平成11)年5月18日