あおいかぜ
青い風

冒頭文

古くから馴染のあるこの海岸へ、彼は十年振りで来て見た。どこもさうであるやうに、ここも震災で丸潰れになつて、柱に光沢(つや)の出てゐるやうな家は一つも見当らなかつた。町はどこもがさがさしてゐたが、しとしとした海風は、やつぱり懐しかつた。脚の不自由な人があるので、家を出て自動車に乗るにも、駅へ来てプラツトホームへ出て行くにも、家族的旅行の楽しさの一半は減殺される訳であつたが、それはそれとして、兎に角三

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第二十六年第十号」1929(昭和4)年10月1日

底本

  • 徳田秋聲全集 第16巻
  • 八木書店
  • 1999(平成11)年5月18日