ばしょうとしだ
芭蕉と歯朶

冒頭文

深い雑木林のなかに建てられたバンガロー風の其の別荘へ著いたのは午後の何時頃であつたらうか。彼はこの高原地へ来る途中、初めてそこを通る同行の姉娘と妹娘に、ウスヰ隧道の出来た時のことなどを語つて聞かせた。それは四十年足らずのむかし、彼が初めて東京へ出た時の思出話であつた。同じ文学を志した友人のK君と徒歩でこゝを通つたとき、隧道の難工事に従事してゐる労働者達の荒くれた風貌や関東弁がいかにアムビシヤスな、

文字遣い

新字旧仮名

初出

「中央公論 第四十三年第十号」1928(昭和3)年10月1日

底本

  • 徳田秋聲全集 第16巻
  • 八木書店
  • 1999(平成11)年5月18日