みずぎわのいえ
水ぎわの家

冒頭文

その時彼はちようど二人の女と差向ひにすわつてゐた。一人はその家(うち)の主婦で、一人は一流の花柳界にゐる女であつた。 そこは彼が時々息安めに行くところであつた。何の意味がある訳でもなかつた。生活の対象とか何とかいふ種類のものでは無論なかつた。緊張した愛の生活をするには、誰しもさう云ふものを欲するとほりに、彼も亦心易く友達と一緒に御飯の食べられるところが一つくらゐほしかつた。それには其処より外、

文字遣い

新字旧仮名

初出

「中央公論 第四十二年第三号」1927(昭和2)年3月1日

底本

  • 徳田秋聲全集第16巻
  • 八木書店
  • 1999(平成11)年5月18日