なみのおと
浪の音

冒頭文

一 新庄はホテルの日本室の寝床のうへでふと目をさました。海岸は風が出て来たらしく、浪の音が高かつた。何かしら訳のわからない不安を感ずるやうな、気持で——勿論それは薄暮の蒼白い部屋の色が、寝起きの頭脳に、彼が盲腸の手術をやつたとき、病院の部屋で魔睡薬がさめかかつて、目をさました瞬間の蒼白い壁の色などの聯想から来たものだことはわかつてゐたが、大体彼は日暮方に眠りからさめると、いつもさうした佗しい気持

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文芸春秋 第七年第五号」1929(昭和4)年5月1日

底本

  • 徳田秋聲全集 第16巻
  • 八木書店
  • 1999(平成11)年5月18日