あるよる |
| ある夜 |
冒頭文
彼は此頃だらけ切つた恋愛に引摺られてゐることが、ひどく憂鬱になつて来た。その日も彼女は娘をあづけてある舞踊家のF——女史のところへ、二三日うちにあるお浚ひのことで行くと言つて家を出かけるとき、 「帰りに武蔵野館に好い写真がかゝつてゐるといふから、ちよつと見て来ようと思ふの。先生もお差閊なかつたら、入らつしやいませんこと?」と彼を誘つた。 彼は以前は余り見なかつた活動を、彼女がゐるために時々見る機
文字遣い
新字旧仮名
初出
「文芸春秋 第五巻第五号」1927(昭和2)年5月1日
底本
- 徳田秋聲全集 第16巻
- 八木書店
- 1999(平成11)年5月18日