たおれたかびん
倒れた花瓶

冒頭文

ステーシヨン前の旅館から、新聞社の人達によつて案内されて来たその宿は、氷川の趣味性から言つて、ちよつと気持の好いものであつた。それは其の宿屋が、近代式旅館と言ふには少し古風であつたと同時に、かいなでの田舎の旅籠屋(はたごや)とちがつた、古い都会らしい趣味の頽廃気分があつたからで、彼は庭の植込みのあひだを潜つて、飛石づたひに、一棟離れた茶室に案内されたとき、漸と落着場所に有りついたやうな安易を感じた

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文芸春秋 第四年第一号」1926(大正15)年1月1日

底本

  • 徳田秋聲全集 第15巻
  • 八木書店
  • 1999(平成11)年3月18日