しちもつ |
| 質物 |
冒頭文
或る日捨三は或るところから届いた原稿料を懐ろにして、栄子の宿を訪問した。訪問といつても、彼に取つてはその宿の帳場の前を通つて行くことが、ちよつと極りのわるいことであつたゞけで、此の頃さう改まつた心持ではなくなつた。勿論最近まで、彼は栄子を訪問したことは、絶体になかつた。若し栄子を訪問するに適当な年輩であつたら、彼も或ひはこの三年間のあひだに、一度や二度くらゐは彼女を訪問したかもしれなかつた。しかし
文字遣い
新字旧仮名
初出
「文芸春秋 第四年第五号」1926(大正15)年5月1日
底本
- 徳田秋聲全集 第15巻
- 八木書店
- 1999(平成11)年3月18日