さかみち
坂道

冒頭文

東京のさる專門學校の生徒(と)である草野金太郎は、春休(やす)みで故郷(けう)の町に歸(き)省してゐたが、春休(やす)みも終つたので、あと二時間もするとまた一人で東京にたつのである。 荷物はまとめて驛(えき)に出してしまひ、まだ明るいけれど夕飯も風呂(ろ)もすましてしまつた。これから二時間のあいだ、もう何もすることがない。 忘(わす)れてゐることはないかと考(かんが)へて見るが

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「哈爾賓日日新聞」1940(昭和15)年5月

底本

  • 校定 新美南吉全集第三巻
  • 大日本図書
  • 1980(昭和55)年7月31日