ふくしゅう
復讐

冒頭文

たえ子はその晩(ばん)も女中のお春と二人きりの淋(さび)しい食卓に向つて、腹立しさと侮辱と悲哀とに充(みた)された弱い心を強(し)ひて平気らしく装(よそほ)ひながら箸(はし)を執つてゐたが、続いて来る苛々(いら〳〵)しい長い一夜を考へると、堪えられない苦痛を感じた。 たえ子がこゝへ嫁いでから、彼是一年近くになつてゐた。勿論それは偶然の——と謂つても、今の世のなかで善良な普通の家庭に於ける結婚を

文字遣い

新字旧仮名

初出

「中央公論 第三十六年第五号」1921(大正10)年5月1日

底本

  • 徳田秋聲全集 第14巻
  • 八木書店
  • 2000(平成12)年7月18日