もんつきをきるのき
紋付を着るの記

冒頭文

たまにシマのズボンをはくこともないではないが、冠婚葬祭、私はたいがいなばあい平服でとおしている。けれどこんどの授賞式では恒例モーニング、あるいは紋付という成規になっている。文部省から十一月三日当日の内達に接しると妻はさっそくこれに気をもみ出した。私のモーニング嫌いを知っているし、また私の紋付姿などは彼女も見たことが無いはずで、家族らの古い写真帖の中にも私が紋付を着たのなどは一枚も貼ってない。だから

文字遣い

新字新仮名

初出

「東京新聞」1960(昭和35)年11月

底本

  • 吉川英治全集・47 草思堂随筆
  • 講談社
  • 1970(昭和45)年6月20日