しょうそういんてんをみる
正倉院展を観る

冒頭文

ちかごろこんなにみたされた気もちはなかった。正倉院宝物展を見てである。その晩は“咲く花の匂うが如き”とうたわれた千二百年前の天平びとに返った夢でもみるかもしれないと思ったほどだ。 博物館の第一室では、いきなりあの楽毅論(がっきろん)の臨書にふれ、光明皇后その人をじかに見た気がしたのである。華奢(しゃ)高遊の風流天子、聖武天皇のおきさきで、次代孝謙帝のむずかしい政情のころまで皇太后の権をき

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 吉川英治全集・47 草思堂随筆
  • 講談社
  • 1970(昭和45)年6月20日