したのすさび
舌のすさび

冒頭文

あれはもう何年前か。とにかく晩春だった。陛下をかこんでおはなしする会が皇居内の花陰亭でもよおされた。文化人四、五名お招きうけてである。——その雑談中のことであったが 『陛下。陛下はマル干シを召上がったことがおありですか』と獅子文六がきいた。『マル干シ?』と陛下はけげんなお顔をなされた。『さあ、どうでしょうな』と、そばから徳川夢声。すこし間をおいて、入江侍従が『おそらく御存知ありますまい』とつ

文字遣い

新字新仮名

初出

「あまから」1960(昭和35)年5月号

底本

  • 吉川英治全集・47 草思堂随筆
  • 講談社
  • 1970(昭和45)年6月20日