いっそう
一僧

冒頭文

わが知己に一人の僧ありき——世を遁(のが)れ、行ひすましぬ。ひたぶるに、祈祷を淨樂として、一念これに醉ひぐれたれば、精舍のつめたき床にたちても、膝より下の、ふくだみて、全身、石柱をあざむくに至るまで、ひるまざりき。すべてのおぼえ、うせぬるまでも、そこに佇みて祈り念じぬ。 この人の心、われよく識りぬ。こゝろ妬(ね)たくさへおもほゆ。彼また吾を解(げ)したれば、おのれが悦(よろこび)にえとゞ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「明星 三ノ二」1902(明治35)年8月

底本

  • 上田敏全訳詩集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1962(昭和37)年12月16日