つきをみながら
月を見ながら

冒頭文

縁側に蹲んで、庭の樹の葉の隙間から空を仰ぐと、満月に近い月が、涼しさうに青空に浮んでゐる。隣家から聞えて来るラジオは流行唄を唄つてゐる。草叢には虫の音が盛んで、向うの松林には梟が鳴いてゐる。さういふいろ〳〵な物音を圧し潰さうとするやうに、力強い波濤が程近いところに鳴つてゐる。 「あの月は旧の七月の、本当の盂蘭盆(うらぼん)の月だな。」 私はさう思つて、ひとり静かに初秋の夜を楽んでゐたが

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆58 月
  • 作品社
  • 1987(昭和62)年8月25日