むかしのにしかたまちのひと
昔の西片町の人

冒頭文

「日本の文壇は今全く不良少年の手に落ちました。何等の教養も何等の傳統もない不良少年の手に落ちました。」と、博士はその華やかであつた青年時代の、唯一の名殘りであるやうな、美しい眸を輝かしながら、嘆聲を洩らすのを聞く時には、雄吉は不良少年の手に落ちた文壇を悲しむよりも、博士自身に對して、妙な寂しさを感ぜずにはゐられなかつた。…… 覇氣に富んだ人氣作家K氏の小説集を讀んでゐるうち、「葬式に行か

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「中央公論 第四十年第十号」中央公論新社、1925(大正14)年9月1日

底本

  • 正宗白鳥全集第十二卷
  • 福武書店
  • 1985(昭和60)年7月30日