そざい
素材

冒頭文

私は發表する當てのないのに物を書いたことはない。また材料を得るために旅行をしたり讀書したりしたことはない。雜誌などに頼まれて何か書かうとして机に向つて筆を採つてから、さて材料はどれにしようかと考へるのである。 さうすると、いろ〳〵な材料が頭に浮んで來る。幾十となく思ひ浮ぶ。生きてゐる限り材料の缺乏に苦しむことはない譯なのだ。自分自身の生涯については云ふまでもなく、肉親縁者の事、近隣の男女

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「文芸日本 第一巻第四号」文芸日本社、1925(大正14)年7月1日

底本

  • 正宗白鳥全集第十二卷
  • 福武書店
  • 1985(昭和60)年7月30日