ダルマせんにっき
ダルマ船日記

冒頭文

×月×日 金 眼を覚ましてみると、側に寝ていた筈の六さんの姿は見えなかった。 居候のくせに、なぜこうも寝坊するのであろうか。 桝のような船室から首を出して、甲板を見廻わすと、既に、七輪の薬罐が湯気を吹きあげていた。 この船の名は、水神丸。積載量百トン。型は、通称ダルマと言っている。年齢は、三十五歳。生れは深川。 まるで、老人みたいな風貌だ。無数の皺

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」中央公論社、1937(昭和12)年12月号

底本

  • 山之口貘詩文集
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 1999(平成11)年5月10日