ぼうふうへのきょうしゅう
暴風への郷愁

冒頭文

郷里の沖縄から、上京したのは大正十一年の秋のことであったがその年の冬に、はじめて、ぼくは雪を見た。本郷台町の下宿屋の二階で、部屋の障子を開けっ放して、中庭に降りつもる雪の白さを、飽かずにながめたことを記憶している。南方生れのぼくは、はじめて見る雪のながめに、つい寒さも忘れて『忠臣蔵』をおもい出していたのであった。その後、同郷出身の友人たちに、きいてみると、雪に対するぼくらの第一印象は、誰もが『忠臣

文字遣い

新字新仮名

初出

「毎日新聞」毎日新聞社、1954(昭和29)年9月25日号

底本

  • 山之口貘詩文集
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 1999(平成11)年5月10日